第九羽【護封巫女】③
朝になってから、朝食を摂りつつ今後の予定を話し合っていたところ。
菊花が突然こんなことをいったのだった。
「あ、そういえばアリシアさん。結局ロサーナさんの血筋について、あんまり良く分からなかったんですけど……。あれってどういうことだったんですか?」
ん……? 何を言っているんだろうか。
聞いたところではロサーナは魔王封印の巫女で、その技術を正確に伝承したただ一人の人間だから連れ去られた。そういう話じゃなかったか?
「ええ。それは聞いたんですけど。でもそれって初めて会ったときにも、アリシアさんが言っていませんでしたっけ……?」
「え……? そうだったか……?」
「む……。どうだったかな」
……あれ……? 聞いたことあったかもしんない。具体的には五羽の⑥あたりで。
「ごのろく……? なんですか、それ?」
「いや、分からんならいいんだが」
あんまりメタりすぎてもなんだしな……。
だが確かに言っていた。魔王封印の術者だとかなんとか……。
「うむ。言ったが……、それは【魔王封印の術士】であって、【封印の術式を司る一族】とは言っていなかったはずだが……」
いや、だからそれが同一だと言っているんだが……。
「……む。そういうことか。なるほど……。さて、どう説明したものかな……」
アリシアはそう言うと、腕を組んで唸り始めた。なんだそれ、俺たちが馬鹿だっていうのか? それとも言語翻訳が上手くいっていないのだろうか。
『それについては僕が説明しようじゃないか!』
この脳内に直接響くような声は……。
俺は思うがままに即答する。
「いえ、結構です」
『いやいや、遠慮することないって。いいから訊いてごらん?』
「いえいえ、ガチで結構ですから。なんなら今すぐ帰ってくれて結構ですから」
『あれあれ、ちょっとっ! すぐさま巾着袋に戻そうとしないでよ! まだ出てきたばっかりなんだよ! まだ全然挨拶とかしてないんだよ! ほら、一人初対面の子もいると思うんだけどなっ!』
「一生お知り合いにならなくていいんだよ。いいからとっとと帰ってくれ。お前の鳥顔見てると七面鳥が食べたくなってくるだろうが!」
勝手に変身して巾着袋から顔を覗かせてきやがったから、俺は巾着袋の袋をぎゅっと締めて追い出そうとするが、首が引っ掛かって締まらない。いや、逆に絞まってるような気もするけども。
『ちょっとっ! お願い! たまには賢者らしくお喋りさせて! カッコつけてお話ししたいんだよぉ!』
「トリの時点でカッコ良くないから諦めろ」
俺は渾身の力を込めて、トリの首を絞める。苦しそうにもがいているが、どうせどう足掻いたところで本当にこいつを害することはできないんだ。だったら、いくらでも強硬手段に出られる。俺の学習能力を甘く見るな。鳥類の分際で図に乗るんじゃない。
『た、助けてぇ! ツバサ君に食べられてしまうよぉ!!』
ナズナに助けてもらおうと画策しているんだろうが、お前はまだまだ甘いな。ウチのナズナをただの子供と侮ると痛い目見るぞ。
ウチのナズナは、こういう子なんだぜ。
「……今日は、トリの丸焼き、です……?」
『ちょっ! 焼けないから! 食べれないからぁあああーーー!!!』
哀愁に満ちた賢者の泣き声が、朝の町並に鳴り響いた。
――
しばらくの間、如何にしてこのお鳥様を害しようかと話し合う俺とナズナだったが、菊花の鶴の一声で解放する運びとなった。チッ、運の良いヤツめ。
『……ふぅっ、食べられてしまうかと思ったよ。……二重の意味で』
「……何と何を掛けてるのかは、絶対に訊かないからな」
……この野郎。今度はBL的言動で、俺に刃向かう気か……。七面倒臭いヤツだな。七面鳥だけに。
「つーか、とっとと話を進めろ。封印術士と封印を司る一族とやらの違いを。さぁ!」
『……君が散々脱線したんじゃないか。良い性格してるね、ホント』
「うるせえ。そういうお小言は間に合ってんだよ。ほら、はよ言え。そんですぐ帰れ。そして二度と顔を見せるな。そのトリ面を俺の前に晒すんじゃない」
「……ツバサ様、いくらなんでも滅茶苦茶ですよ」
『ほらっ! こう言ってるよ! 改めないのかな!? どうかな、ツバサ君!』
俺はトリのクチバシを摘まんで黙らせる。むぅむぅ唸っているが、知ったことじゃない。
「……菊花。こいつの肩を持つな。メンドクサイだけだから」
「……そうみたいですね。ごめんなさい」
『ええっ!? 謝っちゃうの!!?』
菊花はもう少し厳しさを持たせたほうがいいかもしれない。アリシアを見てみろ。さっきから口も挟まないぞ? ……と思ったら、おろおろと慌てふためいていた。……場に追いついていないだけだった、だと……ッ!
菊花のほうがまだ順応していたようだ。揃いも揃って二人とも良い人だからな。善良すぎるというか……。ナズナみたいな無邪気な黒さは持ち合わせていないみたいだ。
「……と、そんなことより、ほら早く解説よろ。せっかく最期の見せ場を作ってやったんだ。華々しく散ってみせろよ」
『なんで僕が死ぬみたいな話になっているんだいッ!? 僕は死なないよ! 死ぬもんか!』
「死なないなら俺が殺す。だから結果は一緒だ。安心しろ」
『何一つ安心できる要素がないよね!? どちらかというと皆無だよね!?』
「骨の一つくらい拾ってやるさ。……フライドチキン」
『ぼそっと何言ってんの!? 食欲しか感じられないよ! 優しさとかそういう感じじゃないよソレ!』
場についていけない菊花とアリシアが立ち尽くすばかりだが、ナズナだけはヨダレを垂らしていた。……嬢ちゃん本気だな? エライエライ。
『……と、とにかく……、話を続けるよ?』
そう区切ると、賢者は一つ咳払いをした。トリの外見で咳払いされてもおかしな感じしかしないんだが。
『さて、少し話は長くなるけれど……。まず、かつて起きた人魔戦争のことは知っているね? 遙か昔、文献すらほとんど残っていないけれど、かつて大きな戦争があった。……人族と魔族の戦争だね』
その戦火は世界中を巻き込み、多くの国と民衆が犠牲になったという。
『その結末は勇者の一族やその一行が魔王を封印し、名のある魔族たちを討伐することで治めたと言われている』
そしてそれからしばらくは平穏な日々が繰り返されたという。それが崩れたのは数年前。
『――そう、魔王の復活だよ。復活当初は大きな動きはなかった。ただの噂話程度のものだろうと思われていた。もっとも、世は確かに荒れ始め、魔物の異常繁殖などは散発的に起こっていたから、全くの平穏無事……というものでもなかったけどね』
……となれば、ここ最近で一番の騒ぎと言えばわざわざ言うまでもないことだろう。
「トータス領の壊滅。これが発端だろうね。あれからまだ一年も経っていないけれど、世界情勢は大きく移ろい始めているね。――さて、それが現代社会の現状というわけだが……』
改めて、説明されるまで細かく把握できてはいなかったな。突然魔王が現れたみたいな印象だったが、そうか……、最初は大人しかったのか。……なんでだろうな。……動かなかった? いや、動けなかった、とか?
『魔王封印。実はその技術は随分と昔から失われてしまったと言われていたんだ。その難解さゆえに術者は増えず、技術も寂れ、隠れ里の場所すらも知るものは絶え……。実質技術は失われたに等しい状態だった。だからこそ、復興を求める者もいたんだ。技術は足らず、けれど熱意だけは本物の未熟者たち。護封術復興者たちはいずれ封印術士などと呼ばれるようになっていった。……まぁ高い技術を持った者も大勢いたことは弁明のために言わせてもらうよ。ただ、彼らは魔王封印の術式だけは継承していなかったというだけでね』
……なるほどな。謂わば希望者。なろうとした者たちの呼称が封印術者になっちまったってわけか。紛らわしすぎる。……そして、正確に継いだ彼女こそが……。
『……ただの封印術士ではなく、真の護封術の伝道者。それこそが彼女だったというわけだね。木を隠すなら森の中、とは言うけれど、本当に護封術を継いでいるだなんてね。……とてもじゃないけどそうは見えないよねぇ』
ああ、分かったよ。作者がとちったのかと思ったけど、そういう複雑な経緯があったんだな。紛らわしいからやめてほしいけども。
「じゃあ、尚更ロサーナさんを救い出さなきゃいけませんね!」
「……あ、ああ。そうだな……、もちろんだ!」
アリシアは少し不満顔で頷いていた。……やっぱりそうは言っても納得はできないよなぁ。蹴落とされたわけだし。
『……だけど、都合が良すぎるというのもあるんだよね。このタイミングで名乗り出たことといい、勇者と既に合流していることといい、一族がキチンと行動したから、というのもあるんだろうけど……。……でも本当にそれだけなのかな……?』
賢者は未だにあの褐色の美女、ロサーナに不信感を抱いているらしかった。……現状筋は通ってるような気がするんだけどな。どこかおかしいだろうか。
……強いて挙げるなら、アリシアを除け者にしたということぐらいだろうか。だが、それもアルスと二人きりになるためのやっかみみたいなものかもしれないし……。……それ以外の目論見なんてあるんだろうか?
……なんて考えていると、いつの間にかトリの背後に立っていたナズナが、突如いきり立って襲い掛かっていた。
賢者は悲鳴を上げながら、ドロンと煙を残して消え去り、あとには空振りして不満げな表情になったナズナだけが残されていた。
すっかり肩を落としてしまったナズナの頭をポンと叩いて、俺は元気づけてやることにした。
「今日はアリシアに鶏鍋でも作ってもらおうな」
「はい、です!」
目を爛々と輝かせたナズナの顔と、対照的に肩を落としたアリシアの顔がどこか印象的だった。
to be continued...
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第九羽【護封巫女】③
朝になってから、朝食を摂りつつ今後の予定を話し合っていたところ。
菊花が突然こんなことをいったのだった。
「あ、そういえばアリシアさん。結局ロサーナさんの血筋について、あんまり良く分からなかったんですけど……。あれってどういうことだったんですか?」
ん……? 何を言っているんだろうか。
聞いたところではロサーナは魔王封印の巫女で、その技術を正確に伝承したただ一人の人間だから連れ去られた。そういう話じゃなかったか?
「ええ。それは聞いたんですけど。でもそれって初めて会ったときにも、アリシアさんが言っていませんでしたっけ……?」
「え……? そうだったか……?」
「む……。どうだったかな」
……あれ……? 聞いたことあったかもしんない。具体的には五羽の⑥あたりで。
「ごのろく……? なんですか、それ?」
「いや、分からんならいいんだが」
あんまりメタりすぎてもなんだしな……。
だが確かに言っていた。魔王封印の術者だとかなんとか……。
「うむ。言ったが……、それは【魔王封印の術士】であって、【封印の術式を司る一族】とは言っていなかったはずだが……」
いや、だからそれが同一だと言っているんだが……。
「……む。そういうことか。なるほど……。さて、どう説明したものかな……」
アリシアはそう言うと、腕を組んで唸り始めた。なんだそれ、俺たちが馬鹿だっていうのか? それとも言語翻訳が上手くいっていないのだろうか。
『それについては僕が説明しようじゃないか!』
この脳内に直接響くような声は……。
俺は思うがままに即答する。
「いえ、結構です」
『いやいや、遠慮することないって。いいから訊いてごらん?』
「いえいえ、ガチで結構ですから。なんなら今すぐ帰ってくれて結構ですから」
『あれあれ、ちょっとっ! すぐさま巾着袋に戻そうとしないでよ! まだ出てきたばっかりなんだよ! まだ全然挨拶とかしてないんだよ! ほら、一人初対面の子もいると思うんだけどなっ!』
「一生お知り合いにならなくていいんだよ。いいからとっとと帰ってくれ。お前の鳥顔見てると七面鳥が食べたくなってくるだろうが!」
勝手に変身して巾着袋から顔を覗かせてきやがったから、俺は巾着袋の袋をぎゅっと締めて追い出そうとするが、首が引っ掛かって締まらない。いや、逆に絞まってるような気もするけども。
『ちょっとっ! お願い! たまには賢者らしくお喋りさせて! カッコつけてお話ししたいんだよぉ!』
「トリの時点でカッコ良くないから諦めろ」
俺は渾身の力を込めて、トリの首を絞める。苦しそうにもがいているが、どうせどう足掻いたところで本当にこいつを害することはできないんだ。だったら、いくらでも強硬手段に出られる。俺の学習能力を甘く見るな。鳥類の分際で図に乗るんじゃない。
『た、助けてぇ! ツバサ君に食べられてしまうよぉ!!』
ナズナに助けてもらおうと画策しているんだろうが、お前はまだまだ甘いな。ウチのナズナをただの子供と侮ると痛い目見るぞ。
ウチのナズナは、こういう子なんだぜ。
「……今日は、トリの丸焼き、です……?」
『ちょっ! 焼けないから! 食べれないからぁあああーーー!!!』
哀愁に満ちた賢者の泣き声が、朝の町並に鳴り響いた。
――
しばらくの間、如何にしてこのお鳥様を害しようかと話し合う俺とナズナだったが、菊花の鶴の一声で解放する運びとなった。チッ、運の良いヤツめ。
『……ふぅっ、食べられてしまうかと思ったよ。……二重の意味で』
「……何と何を掛けてるのかは、絶対に訊かないからな」
……この野郎。今度はBL的言動で、俺に刃向かう気か……。七面倒臭いヤツだな。七面鳥だけに。
「つーか、とっとと話を進めろ。封印術士と封印を司る一族とやらの違いを。さぁ!」
『……君が散々脱線したんじゃないか。良い性格してるね、ホント』
「うるせえ。そういうお小言は間に合ってんだよ。ほら、はよ言え。そんですぐ帰れ。そして二度と顔を見せるな。そのトリ面を俺の前に晒すんじゃない」
「……ツバサ様、いくらなんでも滅茶苦茶ですよ」
『ほらっ! こう言ってるよ! 改めないのかな!? どうかな、ツバサ君!』
俺はトリのクチバシを摘まんで黙らせる。むぅむぅ唸っているが、知ったことじゃない。
「……菊花。こいつの肩を持つな。メンドクサイだけだから」
「……そうみたいですね。ごめんなさい」
『ええっ!? 謝っちゃうの!!?』
菊花はもう少し厳しさを持たせたほうがいいかもしれない。アリシアを見てみろ。さっきから口も挟まないぞ? ……と思ったら、おろおろと慌てふためいていた。……場に追いついていないだけだった、だと……ッ!
菊花のほうがまだ順応していたようだ。揃いも揃って二人とも良い人だからな。善良すぎるというか……。ナズナみたいな無邪気な黒さは持ち合わせていないみたいだ。
「……と、そんなことより、ほら早く解説よろ。せっかく最期の見せ場を作ってやったんだ。華々しく散ってみせろよ」
『なんで僕が死ぬみたいな話になっているんだいッ!? 僕は死なないよ! 死ぬもんか!』
「死なないなら俺が殺す。だから結果は一緒だ。安心しろ」
『何一つ安心できる要素がないよね!? どちらかというと皆無だよね!?』
「骨の一つくらい拾ってやるさ。……フライドチキン」
『ぼそっと何言ってんの!? 食欲しか感じられないよ! 優しさとかそういう感じじゃないよソレ!』
場についていけない菊花とアリシアが立ち尽くすばかりだが、ナズナだけはヨダレを垂らしていた。……嬢ちゃん本気だな? エライエライ。
『……と、とにかく……、話を続けるよ?』
そう区切ると、賢者は一つ咳払いをした。トリの外見で咳払いされてもおかしな感じしかしないんだが。
『さて、少し話は長くなるけれど……。まず、かつて起きた人魔戦争のことは知っているね? 遙か昔、文献すらほとんど残っていないけれど、かつて大きな戦争があった。……人族と魔族の戦争だね』
その戦火は世界中を巻き込み、多くの国と民衆が犠牲になったという。
『その結末は勇者の一族やその一行が魔王を封印し、名のある魔族たちを討伐することで治めたと言われている』
そしてそれからしばらくは平穏な日々が繰り返されたという。それが崩れたのは数年前。
『――そう、魔王の復活だよ。復活当初は大きな動きはなかった。ただの噂話程度のものだろうと思われていた。もっとも、世は確かに荒れ始め、魔物の異常繁殖などは散発的に起こっていたから、全くの平穏無事……というものでもなかったけどね』
……となれば、ここ最近で一番の騒ぎと言えばわざわざ言うまでもないことだろう。
「トータス領の壊滅。これが発端だろうね。あれからまだ一年も経っていないけれど、世界情勢は大きく移ろい始めているね。――さて、それが現代社会の現状というわけだが……』
改めて、説明されるまで細かく把握できてはいなかったな。突然魔王が現れたみたいな印象だったが、そうか……、最初は大人しかったのか。……なんでだろうな。……動かなかった? いや、動けなかった、とか?
『魔王封印。実はその技術は随分と昔から失われてしまったと言われていたんだ。その難解さゆえに術者は増えず、技術も寂れ、隠れ里の場所すらも知るものは絶え……。実質技術は失われたに等しい状態だった。だからこそ、復興を求める者もいたんだ。技術は足らず、けれど熱意だけは本物の未熟者たち。護封術復興者たちはいずれ封印術士などと呼ばれるようになっていった。……まぁ高い技術を持った者も大勢いたことは弁明のために言わせてもらうよ。ただ、彼らは魔王封印の術式だけは継承していなかったというだけでね』
……なるほどな。謂わば希望者。なろうとした者たちの呼称が封印術者になっちまったってわけか。紛らわしすぎる。……そして、正確に継いだ彼女こそが……。
『……ただの封印術士ではなく、真の護封術の伝道者。それこそが彼女だったというわけだね。木を隠すなら森の中、とは言うけれど、本当に護封術を継いでいるだなんてね。……とてもじゃないけどそうは見えないよねぇ』
ああ、分かったよ。作者がとちったのかと思ったけど、そういう複雑な経緯があったんだな。紛らわしいからやめてほしいけども。
「じゃあ、尚更ロサーナさんを救い出さなきゃいけませんね!」
「……あ、ああ。そうだな……、もちろんだ!」
アリシアは少し不満顔で頷いていた。……やっぱりそうは言っても納得はできないよなぁ。蹴落とされたわけだし。
『……だけど、都合が良すぎるというのもあるんだよね。このタイミングで名乗り出たことといい、勇者と既に合流していることといい、一族がキチンと行動したから、というのもあるんだろうけど……。……でも本当にそれだけなのかな……?』
賢者は未だにあの褐色の美女、ロサーナに不信感を抱いているらしかった。……現状筋は通ってるような気がするんだけどな。どこかおかしいだろうか。
……強いて挙げるなら、アリシアを除け者にしたということぐらいだろうか。だが、それもアルスと二人きりになるためのやっかみみたいなものかもしれないし……。……それ以外の目論見なんてあるんだろうか?
……なんて考えていると、いつの間にかトリの背後に立っていたナズナが、突如いきり立って襲い掛かっていた。
賢者は悲鳴を上げながら、ドロンと煙を残して消え去り、あとには空振りして不満げな表情になったナズナだけが残されていた。
すっかり肩を落としてしまったナズナの頭をポンと叩いて、俺は元気づけてやることにした。
「今日はアリシアに鶏鍋でも作ってもらおうな」
「はい、です!」
目を爛々と輝かせたナズナの顔と、対照的に肩を落としたアリシアの顔がどこか印象的だった。