第十二羽【錬金講座①】

「あらぁ、本当に見つけてきてくれるなんて……、アタシ、感激だわぁ……」
「お、おう……、そうか。……そりゃ、良かったな……」
「だ・か・らぁ♪ お礼にた~っぷりサービスしちゃうわよぉ♪」
「……お、お手柔らかにな」

 そんなこんなでどうにかクエストを達成した俺だったが、もう早速ちょっと帰りたくなっていた。それもこれも全てはコイツに原因がある。
 ポンポンと俺のお尻を撫で回しながら、擦り寄ってくるのは本当に勘弁して欲しい。相手が美女なら喜んで誘われるけれども、相手は年も結構上だしそのうえ……。

 ……どう見てもオッサンなのだ、この人……。

 化粧はしているよ? 服装だっておしゃれだとは思うよ、似合う似合わないは置いとくとして。
 ただ、どう見てもオカマなのだ。しかもスキンシップが過剰。
 俺はセクハラに怯える新人OLの如く、縮こまっていた。
 俺の後ろでは、菊花たちが固まってしまっている。初対面の時は庇いたてしようとしてくれていたものの、ものの数分で説得は不可能だと悟った挙句、エスカレートするセクハラに閉口せざるを得なくなったらしく、今では思考停止状態で俺の後ろに鎮座するばかりだ。……クソッ、使えない従者共め!

 しかし、背に腹は代えられない。このオカマは優秀な錬金術師で、道具の作成や、加工に関してはかなりの技量を持っているらしい。
 そんな彼(彼女というべきなのか、一応?)がこの街へ来る際にあのデカイノシシに襲われ、荷物を奪われてしまったというので、それを取り返した……、というのがことの顛末だ。
 曰く、「仕事道具が返ってきたから、ようやく仕事ができるわぁ……」とのこと。
 仕事ができるんならさっさとやって欲しい。そんで、俺のケツを撫でるのをとっととやめて欲しい。

「そ・れ・でぇ……、アナタはどんなのが好みなのぉ?」
「……そうだな、ちっちゃい女の子が割と好きだ。……お前とは違って」
「あらあら、照れ屋さんねぇ。そういうところもキライじゃないわぁ。……け・どぉ、そうじゃなくて、細工の話よぉ?」
「細工……?」
「わざわざアタシに用があったんでしょう? ……アタシの腕に用があったんじゃないの? そ・れ・と・もぉ……、まさか本当にアタシの身体が目当て――」
「そうだ、細工だ! 細工に興味がある! 興味津々なまである!」
「……あら、つれないのねぇ」

 つれてたまるか。
 しかし、どうしようか。その装飾品とかで戦力が大いに潤うこともあるのだろうか。ゲーム風に言うならアクセサリーだよな……。う~む……。
 菊花は、素早いし、決定力も高いが打たれ弱いという欠点がある。そういう意味ではダメージを肩代わりできたり、守備力を増強できたらいいな……。
 アリシアは、未だに魔法関連の能力値が軒並み低い。ナズナも、物理関連はからきしだし……。
 いや、待てよ。欠点を補うのもアリだが、利点を伸ばすのもアリだな……。
 他には……。
 熟練度上昇とかあれば真っ先にそれを選ぶんだが……。さすがにないか……?
 ……というより。

「……まずはどういうのが作れるのか教えてくれないか? それによって決めたい。それにうちにも錬金術師はいるんだ。ナズナが覚えられるものならナズナにやらせたい。できたら、その辺のレクチャーもお願いしたいんだが……」

 俺がそう尋ねると、オカマはオカマらしく科(しな)を作って思案顔になる。

「そうねぇ……。人気なのは属性系かしら……。火属性防御とかあれば、火山系の魔物にも対処しやすいし……。行く場所に応じて装備を変えるのが一般的よぉ?」

 なるほどな。そういうのもアリか……。ただ、数を揃えるのは結構大変そうだな……。全員分全属性とか、骨が折れそうだし。

「あとは、能力値上昇とかも多いけど……、珍しいのだとスキル系とかもあるわねぇ……」
「スキル系……?」
「そうよぉ。結構珍しい鉱石を使うんだけど、技能(スキル)を封じて、使えるようにしたり、元々の技能の効果を倍増させたり……」
「ほう……」
「ただ、使い勝手が良いとは言えないわねぇ。一つの技能しか封じ込められないし、一人が会得できる技能なんていくつもあるわけだし……」

 そう聞くと微妙そうだな。費用対効果に合ってない。しかし、使い方次第では化ける可能性もあるんじゃないか……?

「そうそう、錬金術師がいるのね? 良いわよ、細工の依頼の代わりに、普段は弟子なんて取らないんだけど、他ならぬアナタの望みなら道理を曲げても構わないわぁ……」
「本当か! じゃあ、頼――」

 ひしっ。ナズナが俺の袖を引っ張っている。

「……置いてかないで、欲しい、です……」

 分かった。俺が一生一緒に居てやる。……じゃなかった。

「だいじょうぶだぞ、ナズナ。ちゃんと迎えに来てやるから」
「……う……。で、でも……」

 くいくい。
 俺の袖を何度も引っ張ってくる。……なにこの可愛い生き物。
 俺はわしゃわしゃ~、とナズナの頭を撫でると、一つだけ息を吐いた。

「分かったよ。終わるまで居てやる。だからしっかり学ぶんだぞ」
「……はい、です!」

 くそぅ、時折見せる無邪気な笑顔が可愛すぎるんだがしかし……。

 今日は他にも用事があったんだがなぁ。明日に持ち越すか……。
 従者と騎士様が呆れたような顔をしていたが、俺はそれには気づかなかった振りをして、ナズナの勉強を見守ることにした。

――

 錬金術師のメルビィ氏がナズナに指導を始めたが、ツバサはというとそれをはらはらと見守り続けている。
 そんな光景に、菊花は溜息を一つ吐いた。

「……なんだか、ツバサ様はどうにも、ナズナさんに甘いような気がします……」
「……む、それは私も同感だな」

 菊花の危惧に、アリシアは頷いた。

「べ、別に私が構って欲しいというわけではないんですが……、ただ、いつもナズナさんのことばかり面倒を見てるようで……。ちょっと、……心配です」
「……そうだな。勿論、ナズナ殿はまだまだ子供だし、手を掛けたくなるのも分かるのだが……。些か過剰なような気も……」
「そ、……そうです! 大体、細工なら私だって結構得意なのに……!」
「うむ。生産系を全てナズナ殿に振るというのも少々荷が勝ちすぎる気もする……」
「その通りです! ナズナさんは薬の調合や魔術関連でお世話になっているのですから、それ以外はもっと私を頼ってくれたって……」
「いやいや、キッカ殿だって充分頼られているだろう? 道中での索敵能力や哨戒するときなども凄腕だと思うのだが……。……それに比べて私は……」
「いえいえ、アリシアさんだって頼られてますよ! 槍の腕は超一流ですし、毎日美味しい料理をご馳走してくれてるじゃないですか! ……私は従者として充分なフォローができていません……」

 二人して凹んでしまうのだった。
 自分は大したことができていない。仲間は自分よりも優秀だ。
 もっとできることはないか。役立てることはないか。そんな思いが胸中を支配していた。
 やがて、そんな思いは、膨れ上がり、やがて一つの行動へと結実する。

「あの……」
「その……」
「私にも細工を教えてくれませんか!?」「私にも細工を教えてもらえないだろうか!?」

 菊花とアリシア、そして、ツバサもナズナも錬金術師のメルビィも、きょとんと顔を見合わせるばかりだった。



to be continued...