バーサス・ボーカロイド

深夜0時にゲームが起動し、俺は電脳世界に誘われた。そこに現れたミクと名乗る少女は言った。『ようこそマスター、電脳世界へ! 私と一緒に戦いましょう!』 一体何が何だってんだ……?
この作品はピアプロ・キャラクター・ライセンスに基づいてクリプトン・フューチャー・メディア株式会社のキャラクター「初音ミク・鏡音リン/レン」を描いたものです。

プロローグ《覚醒ウェーブ》

 そのパッドの発明は人類にとって革新的な一歩となった。
 と言ってもそれは何もお胸に当てるパッドのことじゃない。確かにある意味では革新的な一歩なのだろうが、お胸のサイズを気にする女性だけにしか需要がないのなら、わざわざ人類にとって……などと大仰な物言いをする必要はなかっただろう。
 つまり何が言いたいかというと、もう世間では言わずと知れたアイテム、ウェーブパッドの話だ。
 商品名、ウェーブパッド。
 こめかみの辺りにそのパッドを貼り付けることで、キーボードやマウス、タッチパネルすらも必要としなくなるという実に画期的な操作端末なのである。
 操作は簡単。行いたい動作をイメージするだけでいい。音声認識なんかも必要ない。考えればそれだけでその操作が端末上で再現される。
 ウェーブパッドが脳波を読み取り、思考を操作へ変換しているのだ。
 これなら、右手も左手もフリーな状態で端末を操作できる。これを革新的、躍進的と言わずに何と呼ぶだろうか。
 これは経済にすら大いに影響を与えた。
 なぜなら利便性のみならず、手足の不自由な障害者でもPC端末の操作を可能にさせ、ウェーブパッドは爆発的に売れた。そしてその勢いはすぐに世界へ波及することになる。
 無論、俺もその話を聞いたとき、当時まだ入手困難だったそのウェーブパッドをすぐさま購入したものだ。それが何故だか分かるだろうか。
 もちろん俺は障害者ではない。健常者だ。ブラインドタッチもフリック入力も得意だ。だが、俺にはこれが必要だった。何故だか分かるだろうか。
 答えは簡単だ。俺と同じく男に生まれたならば、皆すぐに分かったことだろう。誰もが同じ回答へ帰結する。せざるを得ないという話だ。

 自慰である。

 男にとって、いやここでは語弊があるかもしれないから言い換えておく。自慰を愛する全ての人間が、悩み苦しんでいる事情があるのだ。
 その事情とは、端末操作の煩わしさにある。
 基本彼らは右手での操作ができない。右手はすでに塞がっているからである。
 ならば、端末操作は左手で行うしかない。もっとも、中には行為を左手で行い、操作は右手で……という剛の者もいるだろうし、利き腕の関係でその辺は左右反転しているケースなど、色々あるだろうがここでは端折らせて頂く。
 とにかく、煩わしいのである。これには一切の疑念を挟む余地はない。
 テキスト送りにしろ、再生ボタンにしろ、頻繁に操作が必要となる。自分のペースで行為を進めるためには、どこかで手綱を握る必要があるわけだ。
 それが操作に集約される。
 つまり左手である。
 右手こそが要である、という考え方はまだまだ自慰の何たるかを理解していない人間の、いわば妄言に過ぎない。
 その本質は左手だ。考えても見て欲しい。
 その右腕の原動力とは何だ? そのグラインドの源とは何だ? そのリビドーの根源とは何だ?
 即ちそれこそが、俺たちの求める夢であり、希望であり、またの名をオカズというものなのだ。
 俺たちはそのために生きている。そのために呼吸している。俺たちの肉体はそのために作られたものなのだ。
 ゆえに俺たちは諦めない。その道を進み続ける。その道を極め続ける。
 そこにどんな茨が待ち受けていようとも、歩み出すことを忘れはしない。
 その意志の体現とでも言うべきものがウェーブパッドなのである。

 さらに驚くべきことに、このウェーブパッドにはもう一つの可能性がある。
 本来、ウェーブパッドは脳からの信号の受信機であり、PC端末への送信機なのだが、これらの情報データは相互通信が可能らしい。
 つまり端末からの出力、脳への入力も行えるということだ。
 それがどういうことかと言えば、例えば、乳房の柔らかさだとか。例えば、局部の締め付けだとか。例えば舌先のぬめりだとか。
 そんなものを脳内で再現できてしまうというのだ!
 SF世界で言うところのバーチャルダイブみたいなものだ。
 夢でしかなかった、あのバーチャルリアリティが現実のものとなるのだ。
 これには全人類が沸いた。
 そしてそんな夢の技術に誰もが憧れた。
 しかし残念ながら、完全なるダイブ経験には至れていない。
 今の世界の技術力では、視覚情報、音声情報の再現くらいしか出来ていないのだ。
 いまだ完全には実現できていないが、ダイブ技術は今、大いに注目されている技術なのである。

 斯くして俺はその人類の英知の結晶であるウェーブパッドを使用しての自慰に勤しんでいた訳である。
 ディスプレイ越しではなく、視覚情報として直接脳内に展開される百合の園。ヘッドホン越しでないリアルな吐息。
 俺は濃密な時間を過ごしていた。
 俺はこの時代に生まれてきて、本当に良かった。
 俺は幸せを噛み締めながら、右腕を上下にグラインドさせていた。
 ああ、凄い。素晴らしきかな二次元。そろそろ……、来る……ッ!
 そんな俺の視界の端では、デジタル時計が刻々と針を進めていて、俺が目を向けたまさにその瞬間に時刻が0時00分を刻んだ。

 その時だった――。

 急に俺の意識が引っ張られ、暗い黒い世界へと放り出されたのだ。
 こんな絶頂感、聞いたこともない!! ……なんて考えたのは一瞬だ。
 俺はすぐにその感覚の正体に感づいた。
 俺の意識はウェーブパッドから端末へと飛ばされてしまったのだ。
 ダイブ現象。
 ウェーブパッドを使った弊害として広く認知されていて、かつそれを意識的に起こす技術も見つかっている。
 俺の意識はウェーブパッドに向かいすぎてしまい、現実を認識できなくなった状態なのだ。
 ウェーブパッドの起こす擬似的な感覚情報が強すぎて、そちらを現実であると脳が錯覚してしまった。
 そういう強いショックを与えればソフトウェア側でも同じ現象を起こせるとかなんとか。
 実際そういうダイブ技術を利用したゲームも着手されていると聞いたこともある。
 まぁとにかく俺は、電脳空間に飛び込んでしまったわけだ。
 この程度で済む話なら、それは笑い話にもならないような、取るに足らない日常風景の一つでしかないだろう。
 だが、俺を取り巻く状況はそれどころではなかったのだ。
『マスター! マスター! 聞こえますか!? 私と契約して《調声技師(アセンブラー)》になってくださいっ!』
 そんな声が聞こえてきたので、たまらず俺はこう思った。
 全くお前は、どこのインキュベーターだよ。

第一話《電脳バーサス》

『マスター! マスター! 聞こえますか!?』
 そんな可愛らしい少女の声が聞こえ、俺は周囲を見渡した。
 暗く黒い世界だ。
 特に何も見当たらないが、空に幾つもの線が伸びている。規則的に並んだ緑色の線は縦、横、奥へと駆け巡っている。例えるならグリッド線。X軸、Y軸、Z軸を指し示すラインに似ている。それが何本も連なり、無機質な空間を演出している。
 見たままに電脳フィールド、といった風景だ。
「ダイブなんて初めてしちまったけど……、本当に出来るもんなんだな……」
 感想はそんなところだった。
 聞くからに胡散臭いと思っていたが、体感してみるとなかなかに感慨深いものがあった。
「どーせなら、もっとエロい世界に飛び込みたかったけどな」
 俺がそんなことを呟いた直後だった。
『ようやく見つけました! マスター! ようこそ電脳世界へ! 私と一緒に戦いましょう!』
 俺の眼前でポリゴンが生成されてゆく。線と線が結び付き合い、面と面が繋がり合い、それが少女の姿へと変貌してゆく。
 その姿は、実に可愛らしい少女だった。
 まず目に付いたのは長い青髪を頭の上のほうで二つに結んだ巨大なツインテール。その髪を留めているのは赤いリボンだ。髪は膝辺りまで伸びていてあまりにも非現実的だ。二次元的といったほうが分かりやすいだろうか。青色の髪といい、現実世界ではコスプレ会場でしか見かけない造形だ。そして細い顎へ向かうのは黒いヘッドセット。その下には銀色っぽいノースリーブのシャツ。髪と同じく青いネクタイがその細い首元に巻かれている。手首から肘上までを覆う黒い腕袋。シャツから下へ視線を下ろすと、そこでは黒くて短いプリーツスカートがふわりとたなびき、その下に絶対領域と呼ばれる若干の太腿チラ見せスタイルからの黒ニーソックス(厳密にはサイハイソックスなんだろうけど)が、これまた少女らしい控えめな肉付きの脚部を覆っている。
 見た目は一六歳くらいといったところだろうか。顔立ちは幼さが残るが、目鼻立ちは整っており、相当に美少女だった。その利発そうな眼差しは少女らしい服装と相まって相当に可愛らしい。
 というかもうぶっちゃけてしまおう。ストライクだ。
「俺もようやく見つけたよ。生涯、添い遂げるに相応しい姫君ってやつをな……」
 俺はそう言ってその少女の手を取った。
「あ、あの……マスター?」
 少女はおっかなびっくりといった様子でされるがままになっている。
 平常心に戻ったら、怒るだろうか……。
 ……ならば強引にッ!
 この瞬間の隙を逃さずに、少女に抱きついてやろうかと腕を広げたところ、振り向いた少女の頭が突っ込んできた。
「そうでした! 大変ですマスター!」
 ガツン!
 大変なのはお前の石頭のほうだ。なんつー堅さだよ……。俺は鼻を押さえつつ蹲る。
 少女のほうは微塵も痛くないらしく、はきはきと言葉を続けた。
「初めてのログインで勝手も分からないでしょうが、もうゲームが始まってしまいます! このミクが付いておりますので、どうにか今日の戦いを生き残りましょう!」
 俺は状況も分からないまま流されつつあった。
「ミク……?」
 何かの名前だろうか、と思って俺が問うと少女は頷いて朗らかに笑ってみせる。
「はい! 私、初音ミクと言います! 今日からよろしくお願いしますね、マスター!」
 ミクがそう言うと、周囲の空間が揺らぎ始める。
 何が何だか分からず、俺は思わずミクの腕を掴んでしまう。
「だいじょうぶですよ、マスター。ゲームが始まるだけですから」
 そう言って、ミクが可愛らしいく笑うと、電脳空間は氷解し、視界はブラックアウトする。
 俺は恐怖で身が竦んでいた。

「マスター! マスター! 目を開けてください! マスター!?」
 少女にそう呼ばれ、俺はびっくりして目を開けた。
「……ここは……?」
 辺りを見渡せば、そこはノイズだらけの空間だった。俺とミクの身体だけが綺麗に実体を保っている。
「今はロード中です。丁度良いので、ここでチュートリアルを進めておきたいんですけど、だいじょうぶですか……?」
 ミクはそんなふうに言って、小首を傾げていた。なんだかそんな一挙手一投足まで実に可愛らしい。やばいな……。
「マスター? 本当にだいじょうぶですか? お体の具合が悪いんじゃあ……?」
「だいじょぶだいじょぶ! 君の魅力に酔い痴れていたのさ!」
 勢い任せにそんなふうに返すと、ミクは急に顔をぼぅっ! と真っ赤に染めて俯いてしまう。
 しばらくもごもごした後、ミクはどうにか言葉を捻り出した。
「え、あ、その……う~、……す、すみません……」
 なんか謝られた。結構うぶな性格なんだろうか。
 というかそろそろ気持ちも落ち着いてきたのか、今更になって様々な疑問が浮かび上がってくる。
 そもそもこの少女はなんなのだろうか。そしてこの空間はなんなのだろうか。
 ダイブしてしまったということは、俺は今、PCの中にいるということなんだろうが、残念ながら俺の持つ18禁ゲームの中にミクという少女は出てこない。
 そこそこに二次元に詳しい俺だが、この初音ミクというキャラクターを、俺は知らないのだ。
 ……ここは本当に俺のPCの中なのか?
 聞いた話ではダイブしてしまったとしても、知らない空間に連れて行かれるなどという話はなかったはずだ。
 俺は本当にダイブしたのか?
 そんな疑問すら浮かんでくる。
 俺はダイブしたつもりになっているだけで、もっと特別な現象が起きているのではないだろうか。
 それなら知らないキャラクターや知らない設定が出てきたとしてもおかしくはない。
 おかしいとすれば、何故そんな空間に俺は連れて来られてしまったのか、ということだけだ。
「……なぁ、えっと、はつねさん……?」
 相手がAIで動く二次元キャラなのか、あるいは二次元キャラのビジュアルを纏っただけの誰かなのか分からず、俺はとりあえずそんなふうに切り出してみた。
「……? ミク、で結構ですよ? マスター」
「ああ、じゃあ……ミク」
 なんか照れるな……。女の子の名前を呼び捨てにしてるぞ、俺。リア充なう。
 なんてことを考えているうちに、少しずつ動揺は収まってきた。
 っていうかアレだな。出会い頭に抱きつこうとしたり、あと、他にもかなり軟派な挨拶をしてしまったりと、ひょっとして俺って、かなりヤバイ奴なんじゃないかな。いかんいかん。気を引き締めないと。
 気持ちを切り替えるつもりで、コホンと咳をしつつ、俺は改めてミクに問いかけることにした。
「ここは何処なんだ? それと君は一体、何なんだ……?」
 問うと、ミクは一瞬ぽかんとしたあと、再びにっこりと笑って説明を始めてくれた。
「ここは《バーサス・ボーカロイド》、正式には《VSV.net(ブイエスブイ・ドットネット)》と呼ばれるゲームの中です」
 ゲーム。ミクはさきほどから何度かそんな言葉を発していた。しかし、だとすると疑問が残る。
「俺はどうしてこんなところにいる? 大体、俺はそんなゲーム持ってないんだぞ? どうして俺はそんなゲームの中にいるんだ?」
「それについては、今はちょっと説明できません。あとで必ず説明しますので……」
 ミクはそう言って、俯いてしまう。長い前髪が彼女の表情を隠す。
 そんな顔をされたら、何も聞けないだろうが。
「ごめんなさい、マスター。今説明できるのは、今現在、マスターは自宅のPC端末からネットワーク経由でVSVにアクセスしているということです。だからマスターがこのゲームを知らなくても、それは仕方がないことなんです」
 なるほど。どうして俺がそんな空間にアクセスしているのかは分からないが、そういう状態ならば、今の状況は説明できる。正直、含むところがないわけではないが、話せないという以上は置いておく他ない。とりあえずは次の質問へ進むとしよう。
「……で、君は一体……?」
 俺がミクへ視線を向けると、ミクはようやく顔を上げてくれた。その顔は一瞬、痛みを堪えるように歪んだが、すぐに微笑を作り出した。ちょっとぎこちない微苦笑ではあったが。
「……マスター。メニュー画面は開けますか?」
「メニュー……?」
 俺が脳内でメニューという単語を思い浮かべると、ウェーブパッドが読み込んだのか、メニュー画面が表示された。ふぅん。少し疑問は残っていたが、ウェーブパッドが動作したということは、確かにゲーム空間にダイブしている、という状況で間違いはなさそうだ。
 表示されたメニューにはミクと思われるキャラクターのステータス画面と、いくつかのタブが存在していた。
「マスター。スペックというタブは分かりますか?」
「ああ、これだな」
 俺は言われた通りにタブを展開する。
 すると一気に情報が表示される。
 これは……、ミクのスペックだろうか。
「えっと、個体名《初音ミク》。身長158センチ。体重4……」
「きゃぁあああああああ!!」
 俺の展開したタブを塞ぐように手を伸ばすミク。何だってんだ?
「どうかしたのか、ミク?」
「なななななな何言ってるんですか、マスター? 電子世界に体重なんてありませんよ?」
 ミクがそう言うと、スペックの《体重》の項目にモザイクが掛かった。
 視界エフェクトを掛けたらしい。すげーな。今時のゲームはAI側からそんなことまで出来るのか。
 だが確かに見てしまった。
「おかしいな。今確かによんじゅう……」
 その瞬間俺は次の句を告げられなくなった。

「マスター……」

 ミクの形相がとんでもなく恐ろしいことになっていたからだ。
 げぇッ! あの超絶美少女は何処へ!? 俺の夢を返して!
「……マスター? ……39キロですよね? ……ミクだけに39キロって言おうとしたんですよね? ……ねぇ? ……そうだって言えよ……ッ!」
「そうですそうです! ミクさんだけに39キロかなーって思っちゃっただけです。ミクさんホントに可愛い子なー! ミクさん可愛いよミクさん! ミクさん超天使! マイスウィートエンジェルミク!」
 どうにかそこまで告げると、嵐は過ぎ去ったのか、ミクはくるっと表情を和らげる。
「あはっ! そうですよねー! もうマスターったら、正直者なんだからっ! もうっ!」
 てかてかーっと明るい表情を見せるミク。どうにかご機嫌は回復したらしい。
 俺は冷や汗を拭いながらも、中断した話を再開させることにした。

「……で、これがミクのスペックな訳か」
 改めて見てみると、そこには身長体重などの基本スペックの他にイクイップメント、つまり装備の項目があった。
 一番上には8/9という数字。ここにはキャパシティと書かれている。
 その下には近接武装《ネギ・ブレード》との表示。他には遠隔武装《ハピネス・ポップ》。
 あとその次に耐衝撃武装《オリジナル》と続く。
 項目は……この三つだけか。
 これがミクの現在の装備……ということだろうか。
「分かりますか? 今私が装備している《武装(アタッチメント)》は三つ。近接用の《ネギ・ブレード》と遠くから攻撃できる《ハピネス・ポップ》。それと、この服《オリジナル》です」
「へぇ……その服も装備の一つなのか……。なぁ、ミク?」
 浮かび上がった疑問を、俺はぶつけるべきかどうか迷った。
 だが、男にはやらねばならぬ時があるし、言わねばならぬ時がある。たとえいかなる犠牲を払ったとしても、だ。
 だから俺は、危険を顧みず、堂々と訊ねることにする。
「……なんです?」
 そんな思惑を知らずに、ミクはきょとんとした顔で振り向いた。なんでそんな何でもない顔で可愛いんだお前は。
 俺の決意は若干揺らいだが、それでも意を決し、その先を告げた。
「その耐衝撃武装? 《オリジナル》……だっけか? それって外せないの?」
「え~っと、……それはどういう意味でしょうか、マスター?」
 ミクは意味が呑み込めない、といった様子で目を丸くする。
「ああもう、だから……、お前の服を脱がすことは出来ないのかって訊いてるんだよ!」
 理解が遅いミクに、思わず俺は声を荒げてしまった。
 途端に時が止まったかのように、静止するミク。
 そうか……やはり、無理だったか。AIにはある種の行動の制限が掛けられていることが多い。ミクの処理範囲を越えていたということだろう。つまり、出来ない。そういう結論に達した。
 ……なんだよ。せっかくのダイブ経験なんだぞ。どうせなら堪能したい。それもエロ方面で。
 しかしこの分だと、他の方法でも欲求は達成できそうにない。何らかの作戦が必要だろう。
 ……などと、考えていた俺の正面で、いつの間にか顔を真っ赤に染め、思考停止状態に陥っていたらしいミクが喋り出す。
「もうっ! もうっ! 何を言っているんですか、マスター! 脱ぎませんし脱げません! だって、そんなことしたら……したら……」
 尻すぼみになっていく口調に、俺はつい乗っかってしまう。
「……したら?」
「……何でもありません!! もう! マスターのエッチ!!」
 びたーん!!
 平手打ちで吹っ飛ばされた。軽く二メートルくらい吹っ飛ばされたぞおい。しかもめちゃくちゃ痛えし。
 ……というか、普通に通じてたんだな。改めて高度なAIだなと感心する。いや、まだ中の人説を完全に払拭できたわけではないんだが。
「ん? っていうかなんで痛いんだ? ダイブしているとしても痛覚やら触覚やらはまだ研究途中だったはずじゃあ……」
「ああ、それなら、簡単ですよ。公表されていないというだけの話ですから。感覚は既にほとんど実装できています。ソフトウェア側だけでも、充分なくらいに」
 嘘だろ。だったらとっとと夢空間を作ってくれっての。ソフトウェア開発会社さんよ。
「ただ……、色々と問題点があって、現在ではまだ公表できないんです」
 ミクはそこで《問題点》と言った。《不具合》ではなく。
 俺はそこに少しばかり背筋が凍り付く思いを感じた。
 何故なら俺はその、《問題点》を抱えた空間の中にいるのだ。
 『中に誰もいませんよ……』的な状態ではない。『しっかりと中に人がいる』のだ。そしてそれは俺なのだ。
「それって、危なくないのか? 問題点があるんだろ……?」
「ええ。『基本的には』だいじょうぶです。だから、私の言うことをしっかり聞いてくださいね」
 ミクは言った。実ににこやかな顔で。
 なんか俺、もう人格把握されてないか……?
 いや、まぁいいんだけどさ。そういう解釈でも。
「少し話が逸れてしまいましたが、これが私の《武装》です。キャパシティは装備できる最大量を表しています。《ネギ・ブレード》が3ポイント、《ハピネス・ポップ》が3ポイント、《オリジナル》が2ポイントで合計8ポイントです。キャパシティが9ポイントなのでわりとギリギリまで積んである状態ですね」
 ミクが続けてそんなふうに説明をした。
 これは、ある程度予想通りではあった。
 ロボット物のゲームと大差なさそうな作りだ。しかも結構単純なやつ。
「それと肝心な使い方なんですが……」
 ミクがそう口を開いた瞬間だった。
 今までのノイズ状の背景が掻き消え、足下に水面が広がっていた。
 俺とミクは水音を立てながらそこに着地し、辺りを見渡した。
「ここは……」
「《地下水道》ステージ、ですね……」
 《地下水道》……そう呼ばれたこの風景は、まさしく見たままの風景だった。
 足下には水溜まりが一面に広がっていて、水深はかなり浅い。1センチ程度だろう。
 その水は薄暗い天井から滝のように流れ落ちてきていて、下流には網目の格子があってそこから階下へ流れ落ちているらしい。
 壁も天井もコンクリート造りで空気はなんとなく湿っぽい。
 水は下水みたいな汚い感じではなく、上水らしい透明感がある。
 滝のせいか水煙が上がっていて遠くは見渡せないが広さは縦横共に数十メートルくらいはありそうだ。
「そういやさっき、戦いがどうのとか言ってたっけ……?」
「そうです。私たちはここで……、っ! 来ますっ!」
 瞬間、激しい水煙が上がり、俺とミクは顔を手で覆って、様子を窺っていた。
 やがて、その煙の向こうから声が聞こえる。
「……みーつけた! 先手必勝っ! 『色は匂へと 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ……』」
 それはよくある魔法物の詠唱のようだった。
 これは……いろは唄……?
「まずい……! 回避しますッ!」
 ミクが回避行動を取るのと同時に、少女のハスキーボイスが響き渡る。
「遅い!! 術式《いろは唄》発動! 燃え尽きろ!!」
 ミクが飛んだ直後、その足下の水面から火柱が上がった。
 あと一瞬遅ければ直撃だった。
「ミク!!」
「だいじょうぶです! こちらも反撃します! マスター、指示を!」
 ミクはいきなりそんなことを言った。
「指示、つったって、どうすりゃいいんだよ!?」
「単純な指示でも良いです! 攻撃か、回避かそれだけでも構いません!!」
 そうは言われても、良く分からん。
 そもそもゲーム性次第で、どちらが適しているかなんてコロコロ変わっちまう。
 回避が有利なゲーム。攻撃が有利なゲーム。そんなものは枚挙に暇がない。
 だが、切羽詰まっているのも確かだ。ここで二の足を踏んでいる余裕はなさそうだし。
「分かったッ! ミク、攻撃だ! 《ハピネス・ポップ》を使え!!」
「了解です、マスター! 『聖夜に響け 極彩色(ごくさいしき)の灯籠(とうろう)……』」
 その溜めの隙を突くためか、対する少女もマイクを掲げ、詠唱を始める。
「《ホーリー・スター》発動!」
「行くよ! 《メランコリック・フレア》!!」
 ミクが放ったのはキラキラ輝く星の雨だ。それを相手がオレンジ色の炎で煽り返す。
 衝撃がぶつかり合い、暴風が吹き荒れる。
 俺は吹き飛ばされそうになりながらも、その衝突から目が離せなかった。
「フッ、やるじゃない、ミク姉。一度敗退した身にしては」
「関係ないよ……。私を求めてくれるマスターがいるなら……、ううん、今のマスターのためなら私は……。何度だって蘇ってみせる!!」
 ミクが珍しく敬語以外で、そして裂帛の気合いをもって相手に応じていた。
 俺にはさっぱり状況が読み込めないが、これこそがミクたちが今まで繰り広げていた戦いなのだろう。
 そして俺はこの戦いのマスターとして選ばれたらしい。
 《マスター》。その意味は知れない。恐らくは《指示者》あたりか。
 ミクの台詞を聞く限り、俺は、伊達や酔狂でマスターに選ばれたわけでもないのだろうか。無論『なんとなく』なんかでもなく、ミクはちゃんと選び、そして戦っているらしい。それがゲームだからって馬鹿にすることは、さすがにない。何故なら俺はこう思うからだ。ゲームだからこそ人は真剣に何かを求められるのだと。いつになってもスポーツに熱中する人間の所作は変わらない。ゲームの本質はやはりそこにあるのだ。ならば、俺がすることは一つだ。
 楽しもう。このゲームを。
 いまだ分からないことは多いし、役に立てないこともあるだろう。
 だが、ミクと一緒にこのゲームを楽しもう。目一杯楽しんでやろう。
 俺はそんなふうに思った。
 そうして俺は、メニューウインドウを開いた。
 そこにはいくつもの項目が存在していた。その中で俺は、《通信》コマンドを選択する。
 対象は《初音ミク》。
 《通話ON》と表示されたディスプレイに恐る恐る声を掛けてみる。
『……聞こえるか? ミク』
『え!? マ、マスター……。《通信》コマンドですよね? ……どうかしたんですか?』
 ミクの声には少し緊張感がある気がする。攻撃中だから当然と言えば当然なんだが。あまり余裕はなさそうだ。
 しかし交戦中にも拘わらず、通信にノイズは混じったりしない。少し違和感を感じながらも、俺は対話を続ける。
『なぁミク……。大丈夫か? 余裕はなさそうか?』
 確認の意味を込めて、そう聞いたのだが、
『……あ、マスター……! いえ、余裕です! 大変余裕ですッ!!』
 なんだかその声は実に嬉しそうだった。必要とされることに喜びを感じるタイプなのだろうか。難儀な性格だな……と思いつつ、悪いがそれを利用させてもらうことにする。これだけ高度なAI、もしくは高度なアクセスをしている人間なら、その精神状態の影響はゲーム内にも強くフィードバックされるはずだ。武装の威力も、彼女のテンションに影響している一面も少なくはないだろう。もし仮にそうであるならば、乗せたほうが効果的なはず。
『だったら、お遊びはここらで終わりにしようか。本気でいっていいぞ、ミク』
『はいッ!! マスター!』
 言うが早いか、どうっ! と光が強まり、オレンジ色の炎は押し返されてゆく。そして大量の星がゴスゴスと地面に突き刺さる。
 なんというか……、予想以上に効き目があった。プラシーボ効果か何かだろうか。単純な奴ほどよく効くと言うが……。ミク……、お前ってひょっとして……馬鹿?
 目の前で轟々と星たちが積み上がってゆく。
「きゃあああああッ!!」
 その向こうでは、そんな未成熟な少女の悲鳴が轟いていた。
 積み重なった星々の残骸の上にとん……、と柔らかく着地したミク。その手には《ネギ・ブレード》が握られている。
『……強いのか? それ……。見た感じ、まんま長ネギなんだけど……』
『こう見えて高周波ブレードを積んでいますので、ダイヤモンドでも斬れますよ』
 ミクは朗らかに言ってのける。つーか怖えよそんなネギ。
『あと、お味噌汁に入れても美味しくいただけます』
 入れんな、そんな物騒なもん。
 などとミクと《通信》で会話していると相手がよろよろと起き上がり始めた。
 今まで水煙が立ちこめていて、姿が見えなかったのだが、ようやくお目見えといったところか。
 相手のほうは、やはりというかなんというか、これまた美少女だった。
 見た目は14歳くらいだろうか。金色の髪を短くカットした頭、その頂点に白くてでっかいリボンがあり、前髪にはヘアピンが差されている。服装はミクと同じようなノースリーブに黒い腕袋。Yシャツの代わりにこちらはセーラー服型となっている。そしてこれまた黄色くてでかいリボンが胸元を彩り、下へ視線を向けるとそこにはボーイッシュな短パンがあった。
 その黄色い少女は服に付いた砂埃を払いながら立ち上がると、吊り目を更に吊り上げて激昂した。
「許せない……! マスターの前で恥掻いちゃったじゃない! いくらミク姉でも許さないんだからッ!!」
 言うと、その黄色い少女は右手に持っていたスタンドマイクをロックバンドのボーカルパフォーマンスのように振り回し、抱き込むようにスタンドを掴んで身構える。
「『今 撃ち付ける 狂鐃(きょうどう)の鉄槌…… 輪廻に根差せ 天弦(てんげん)の旋律……』」
 詠唱……!
 そう気づくより早く、ミクが動く。
「マスター!」
 ミクも迎撃の姿勢を取り、詠唱を始めていた。
 判断は俺に任せるということだろうか。迎撃するか、回避するか。だが、ミクには既に実績がある。そう簡単には敗れはしないはずだ。俺はそう読み、
「そのまま行け!」
 と指示を出す。ミクはそれに頷いて答える。
 そのすぐ後のことだった。
 詠唱を終えたらしい黄色少女の術式が発動する。
「潰れろォッ!!《戦樂・神楽(せんがく・かぐら)》ァァアア!!!」
 黄色少女の真正面に煉獄の炎が渦巻き、凄まじい勢いでミクへと突進してゆく。
 黒々と燃えるその炎は周囲に残っていた水を瞬時に蒸発させ、中空を走り抜ける。
 息も張り詰めるその猛攻を、ミクは歯を食いしばって見つめている。
 あわやその一撃が身を焼き尽くすか、といったタイミングでミクの詠唱が間に合い、吹き荒れる旋風が灼熱の業火を受け止める。
 瞬間。衝突した力の余波がコンクリートの地面と壁と天井を砕き始める。
 俺は思わず腕を盾代わりにしてその荒れ狂う暴風を受け流そうとする。が、その威力は凄まじく、地面に屈み込むように伏せることで必死に耐えた。
 ミクと、相手の少女はそれだけのエネルギーの奔流を間近で受けているはずなのに、その場で耐えしのいだだけでなく、放った術へと力を送り続けていた。
 なんつー奴らだよ。俺はただ耐えるだけで精一杯だってのに。その上相手に攻撃をし続けているだなんて。
 良く分からんが、彼女たちが戦い続けているこのゲームの過酷さを改めて思い知った。
 俺に出来ることなんて……あるのかよ……。
 沸き上がったのは無力感だ。それも途方もないくらいの。
 ゲームを始めた瞬間なんてのは、大体そんなものかもしれないけどさ。やっぱり結構、打ちのめされるものがある。
 ミク……。どうしてお前は、俺を選んだ……?
 どうして俺だったんだ……?
 俺ならお前に、何がしてやれる……?
 やがて爆風が晴れ、傷だらけになった二人が姿を現した。
「ハァ……ハァ……」
「……はぁ……はぁ……」
 二人が互いに肩で息をしている。今の衝突で相当に疲弊したらしい。ここが正念場だろうか。
 だが、いまだに分からない。俺には何が出来る……?
 こんなになってまで戦うミクのために、俺は何かしてやりたいのだ。労ってやりたいのだ。ネギだけに。……って、つまんない冗談が思いついちまった。アホか俺は。
 だが、不意に背筋を寒気が走る。
 やばい。そう思うと同時に俺は駆け出していた。
 俺の視界の外で、黄色い少女がハスキーな声で告げる。
「甘いよミク姉……。あたし一人にしか意識が向かないなんてさ……」
 それを合図にしたように、ミクの背後で影が動く。
「久しぶり、ミク姉……。忘れちゃダメだよ。オレとリンは二人で一人なんだからさ」
 少女と同じような黄色い恰好の少年がミクの後ろでピストルを構えていた。
 俺は少年とミクの間に立ちはだかるように滑り込む。
 そして、ピストルが甲高い銃声を響かせた。
 銃弾は間違いなく俺の胸へ突き刺さり、なのにそのままするりと『通り抜けて』ミクの背中に突き刺さった。
 なんで――!
 そう嘆く俺の目の前で、ミクはゆっくりと地面へその身を預けた。
 俺は魂が抜けてしまったみたいに呆然と、その光景を、ただ馬鹿みたいに突っ立って眺めていた。

第二話《抗争インストラクション》

 俺はPCデスクの上に突っ伏して寝落ちしていた。
 何か夢を見ていたような気もするが、どうにも思い出せない。
 何だか随分と必死になっていたような気もするんだが……う~ん。
 顔を上げるとほっぺたにコード跡が残っていた。これだから寝落ちは嫌だ。この顔を人に見られようものなら、からかわれるのは必至。今日からあだ名はフランケンシュタインとかその辺になっていたことだろう。俺が引きこもりでホントに良かった。ビバ☆インドア!
 ……言ってて自分で悲しくなってきたな。
 さて、PCも都合良く起動したままだし、このまま日課のWEB巡回でもしますかね。
 そんなことを思いながら、ディスプレイ右下に表示されるデジタル時計に目をやった。
 午前〇時三〇分。
 キリが良いのか悪いのか、微妙な数字だ。
 寝落ちしていた時間を三〇分を考えると、起きていたのは、……確か、〇時ぴったりだっただろうか……。
 ……………………。
 ……なんだろう。この感じ。
 何かを忘れているような、気持ちの悪い違和感。
 何か、あったはずだ。
 忘れたくない、大切な何かが……。
 そうだ。たぶん、エロい何かが……。

『……すた……。……マスター!』

 俺のウェーブパッドへ声が送られている。
 その声を、俺は知っていた。
「ミク……!?」
 その瞬間、俺の脳内を一気に情報が駆け抜けた。
 寝ぼけて忘れてるんじゃねえよ。馬鹿か俺は。あれだけの現象をよ。
「生きてたのかッ!? っていうか何なんだよアレは! いい加減説明してくれ! プリーズインスト!」
 しかし、声は返ってこない。もやもやと残響みたいな感覚だけが僅かに伝わってくる。
 ……どうなってんだ……? さっき声聞こえたよな……?
 まさか幻聴? せっかく思い出したってのに、やっぱりまさかの幻ですか!? そりゃないぜ!
『……ザザ……、ぼろ……じゃ、……ないです……』
 ……んぅ? なんだか音量が小さいなぁ。俺はスピーカーのボリューム欄を、くいっと上昇させる。……これでどうだ……?
『ザザ……、やっと繋がりました!! マスター!!!』
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!」
 とんでもないボリュームだった。ヘッドホンではないため、ウェーブパッド越しに特大音声がぐわんぐわん鳴り響いた。
 あまりにびっくりして、ひっくり返った俺。ケツとか腰とかめっちゃ打った。あと、隣の部屋から壁ドン食らった。騒がしくてすんませんマジで。夜中の0時だもんなぁ……。ただ、一言言わせてもらうなら隣の203号室のヤツ。毎週末あっはんうっふんやってんの聞こえてるからな。リア充め。とりあえずお前は死んでこい。それにしても壁薄いと気ぃ遣うよなぁ。……とまぁそれはともかく。
「生きてたんだな……。ミク」
『ええ、そうですね……、ってマスター! なんて恰好してるんですか! ひゃああああ!!』
 なんかまた頭の中でうるさいことになっていた。とりあえず俺は頭痛を堪えつつボリュームを正常値まで戻した。
「恰好……? お前のせいでずっこけてんだろうが」
 あんなとんでもボリュームでシャウトしやがって……。死ぬかと思ったぜ。
『ちちち違いますッ!! そんなことじゃなくて……、あの……、その……!』
 ミクはディスプレイの中で何故か顔を赤らめていた。
 ディスプレイに自身を映し出す技術もさることながら、そのAIのほうも恐ろしい性能だ。
 エロ方面の言葉も解して恥ずかしがるなど、法律で禁止されているような思考すら会得している可能性がある。これはこれで実に興味深い。
『どうして服を着ていないんですか!? マスター!!』
 ………………。
「ふぅ……」
 俺はとりあえず溜息をついた。全く。何を言っているんだろうか、このAIは。
「よく見ろ。俺は服を着ているだろうが」
「上だけじゃないですか!! 下もちゃんと穿いてください!」
「馬鹿野郎ッ!! そんなことしたらパンツが汚れるだろうが! ベトベトになるだろうが! お前、頭おかしいんじゃねえか!?」
「うえーん!! マスターがおかしくなっちゃいましたーー!!!」
「おかしくねえッ! 極めて正常だろうが! 正常極まりないだろうが!」
 俺の主張も虚しく無視され、ミクはというと泣きべそを掻いていた。
 一体全体何なんだこのAIは? このプログラムは?
 俺は仕方なくズボンを引っ張り上げ、ミクを宥めることにした。

「さぁ、俺の自慰タイムを妨害してくれたんだ。その分のサービスはしてくれよミクぅ……ぐへへ」
 そんな俺の声はシカトすることに決めたらしく、ミクは平常なトーンで説明を始める。
『まずマスター。このVSV.netという名のゲームなのですが……』
「ふっ、そっちがその気なら、こっちにもやり方ってモンがあるんだぜ……、罠カード発動!」
《あっあっあ……ッ! ダメぇッ!! おかしくなっちゃうぅぅ!》《パンパンパン! ヌッチョヌッチョ……》《はっふっふ……!》
 女性の嬌声と肌と肌がぶつかり合う音、それに水っぽい音と男性の吐息がPC内で再生された。
 俺のお気に入り、《夢飼きりの/三時間半ぶっ続けSP》だ。
 その映像の感覚を共有しているらしく、ミクはディスプレイの中で真っ赤になって俯いている。
 ……なんだか可哀相になってきたな……。
『うぅ、マスター……やめてください……。お願い、ですからぁ……!』
 うん、やめようか……。無理矢理はよくないよね、うん。
 とか言いつつ、なんか苛めるの楽しいかもとか思い始めているイケナイ俺なのだった。

 かくして、ミクと俺はディスプレイ越しに対面するようにして、話し合うことになった。
「えっと……。まずは私について説明いたしますね?」
「おう。スリーサイズからよろしく頼む」
「はい。上から順に……、じゃなくてっ! いい加減に怒りますよ、マスター!」
「へいへい」
 華麗にノリツッコミをかますミク。天然なのかわざとなのか、俺は少し疑問に思った。
「私は初音ミク。VR対戦戦闘シミュレーションゲーム、《VSV.net》に所属するボーカロイドになります。現在、私はこの端末の中で常駐起動している状態になります。ちなみにそちらの情報はウェブカメラやウェーブパッドなどから収集しています。なので、カメラの前ではちゃんと服を着ていてくださいね」
「何言ってるんだ? さっきから言っているが、俺はちゃんと服を着ているぞ」
「下もですよ、マスター」
 ぷんぷんとミクは顔を赤らめる。相変わらずくどいヤツだ。しかし、また泣きべそを掻かれても面倒だし、仕方ないか……。だけどちょっとだけ、泣かしてやりたい気持ちもない訳じゃなくて……。まぁそれはおいおい考えておくとして。
「で……? お前のこともまだ良く分からんが、とりあえず、そのゲームってのは何なんだ?」
 そう訊くと、ミクは頷いて、説明を続ける。
「はい。マスターも既に体験したのを覚えていると思うのですが、あれがこのゲーム、《VSV.net》。つまり《バーサス・ボーカロイド》となります」
 さきほど体験したあれが、ゲーム……、なのか。
 ダイブ自体が初めてだったため、いまいち理解できなかったのだが、言われれば今はそういうゲームなのだと、納得できないこともない。
 だが、やはりいくつかの疑問が残る。
「んで? どうして俺は、突然そんなゲーム世界にダイブしちまったんだ? 俺はウェーブパッドを使ってただけだぞ」
 ウェーブパッドなんぞは今や世界中に溢れている端末だ。発展途上国ならともかく、先進国では珍しいもんでもなんでもない。そんなものを使っていたというだけでこんな不可思議な現象が起こってたまるか。何のためにセキュリティソフトがあるんだか分からんじゃないか。
「はい。実はそのウェーブパッドが問題なんです、マスター。マスターはウェーブパッドが認識している信号がどれほどの多岐に渡っているのか、考えたことはありますか? ……PC内で認識しているのは、全データのほんの十分の一以下でしかないんです。つまり、それ以外のデータが無視されている……、公式発表ではそういうことになってはいるのですが、その実情は違います。実際はそれ以外のデータもPC内に送られているのです」
「それじゃあ、誤動作をどうやって防ぐんだ? そんないくつもの信号を選り分けて選択しているって訳じゃないんだろう?」
「ええ。答えは簡単です。そのデータの強弱で識別しているんです。最も強いイメージだけを選択し、それ以外を除去して行動を実行しているんです。問題はその除去されたデータがどうなっているか、ということなんです」
「除去されたデータ……? そんなもん一時ファイル扱いですぐに消されるんじゃあ……」
「違うんです、マスター。一時ファイル扱いというのはほとんど合っているのですが、すぐに消されはしないんです。……というよりもすぐに消しきれる量ではない、といったほうが正確かもしれませんね。ウェーブパッド本体のフィルターでも除去しきれず、端末側でも処理しきれない余剰データはすぐに削除されてゆくのですが、ある程度の間はデータがPC内に残った状態になる、という訳なのです。そしてここからがトップシークレットなのですが……、実は……」
 俺は思わず息を呑み込んで、ミクの言葉を待ち構えていた。
「そのデータはインターネットを通じて世界中で共有されているのです」
 ……俺はしばらく意味が分からず、呆けていた。
「つまり、マスター。その余剰データ、削除しきれなかったデータは、ある人物に観測されているのです。それこそが《VSV.net》の創始者たち、通称《ゲートキーパー》なのです!」
 ……おいおいおいおい。
 つまり何か? その余剰データとやらを使ってそいつらは何かを企んでいる的な、そういう展開か? いくらなんでもラノベの読み過ぎだろう。妄想はほどほどにしておけよ、まったく。
「それで、その悪の結社がいるとして? そいつらが俺の端末を乗っ取ろうとしているだとか、そんな話か? 馬鹿馬鹿しい。中二病をこじらせたガキじゃねーんだから、もうちょっとまともな冗談を言えってんだ」
「……彼らの望みは私たちも知りません。ですが、恐らくはもっと壮大な計画なのだと思います。……でなければ、こんなにも……」
 ミクは目を伏せて声を震わせている。
 良く分からんが複雑な事情があるらしい。
 というかそもそも、そんな脳波データなんかをサンプリングして一体何が出来るっていうんだ? やろうと思えばそんなデータはいくらでも収集できるだろうに……。
「まぁ、そこは分からんなら分からんで良いとして。そのゲームマスターだかゲートキーパーだかが、脳波データを採集しているとして、んで、次の質問だ。三〇分前のアレは一体何だったんだ?」
 訊くと、ミクは静かに首肯して答えた。
「《VSV.net》は常駐プログラムです。私たちはその中にインストールされているプログラムの一つなのです。《VSV.net》は深夜〇時に自動的に起動し、ウェーブパッドの装着者を電脳空間へダイブさせます。そして仮想世界で戦闘に参加することになります。これは《VSV.net》を所持するプレイヤー、通称《マスター》は強制参加となります。拒否は不可能です。不参加の場合は、自動的に不戦敗となります。そして規定回数敗北した《マスター》は《ボーカロイド》の所持権を剥奪されることになります。……そうなればミクは、マスターとお別れせねばならなくなります……」
 ミクはそこまで説明すると、眼をしばたたかせて、不安げな顔をする。
 が、俺はちょっとついていけなくなっていた。
「……悪い、ちょっと整理させてくれ」
 言うと、ミクは涙を拭って顔を上げるというプログラムらしからぬ情緒的な動きをしていた。
「はい、だいじょうぶです。ちょっと駆け足でしたもんねっ!」
 なんだその照れ隠しみたいな顔は。
 くそ、作られた表情とはいえ、なんかグッとくるものがある。
 つまり俺は三〇分前、ウェーブパッドを使っていたから、《ゲートキーパー》とやらに補足され、このゲームの参加者、《マスター》とやらにされてしまった。
 マスターは深夜十二時のゲームに強制参加させられ、負け続けると、参加権を失う。
 これが《VSV.net》の基本的な流れってことか……?
「……訂正が一つだけあります、マスター……」
 ミクは申し訳なさそうに右手を挙げていた。
「はい、ミク君」
 俺がふんぞり返ってそう言ってやると、ミクは元気に「ハイッ!」なんて言って答えやがる。
 なにこれ超可愛い。俺、将来教師になるわ。ハイ、決まり。
「その、大変言いづらいんですが……、マスターを選んだのは、実は私なんです……」
 ……は?
「あの、その、説明が下手で申し訳ないです、マスター。……えっと、さきほども言った通り、負け続けたマスターとはお別れすることになります。その時、私は一部のデータを残して初期化されます。そして、《VSV》サーバーへ帰還することになるのですが、そこには各地から収集された脳波データが集結しています。私はその中から《VSV.net》に適応できる人間を、中でも私と最も相性の良い《マスター》を検索することが出来るのです。そうして見つけたのが一之瀬幹人(いちのせみきと)さん、あなたなんです……」
 ようやく、といったところだが、話の概要が掴めてきた。
 つまりその中央サーバーに様々な情報が集められているのだ。それも極秘裏に。俺のフルネームすら断定できるくらい鮮明に。
 そんなことをしてそいつらはゲームを運営している。
 その正体は、ただの娯楽なんかじゃあないだろう。だったらここまで話を飛躍させる必要自体なかったはずだからだ。
「あと、マスター……。負け続けたマスターとは契約解除になってしまう、という話なんですが……。私はその際に、マスターとの思い出をなくしてしまうのです。大切だったはずなのに、大事だったはずなのに、私はもう顔も、名前も思い出せないんです……。こんな別れを、何度繰り返したのかも分かりません。マスター……、私は、駄目なボーカロイドなのです。マスターが築いてくれた信頼関係を壊しながら生きている……」
 ミクの瞳から、涙がこぼれそうになっている。ミクはそれを堪えようと、必死に笑顔を作ろうとするが、その表情はあまりにぎこちない。
「……それでも私は、戦わなければいけないんです。こんな馬鹿なボーカロイドがパートナーじゃあ、心許ないかもしれませんが、それでも……っ、それでも、協力してくれますか? マスター……」
 AIとは思えない思考回路だった。俺の前には、一人の女の子が傷ついて、それでも懸命に立ち上がろうとしているようにしか見えない。
 だが、リア充でない俺には残念ながら、理想的な励ましをすることが出来ない。
 俺に出来ることなんて、これくらいか……。
「ミク、俺のことなんか気にしなくたって良いんだ。ただ、辛くなったときはいつだってパンツを見せてくれていいんだからな……」
「……ありがとうございます、マスター……。分かりました。これからは遠慮しないで、いつでもパンツを、見せ…………。…………あれ……?」
 そこで、ミクの言葉が止まる。こくりと首を傾げている。
 何故だッ!? あと一息じゃないか! めげるな! 行け! 押せ!
「良し! それじゃミク! さっそくパンツを――」
「見せるわけないじゃないですかぁああーーー!!!!!」

 PCの駆動音が止んだ。
 俺は重たい身体をベッドへ放り投げる。
 目を閉じて思い出すのは、ついさきほどまでのミクとのやりとりだ。
 《バーサス・ボーカロイド》。
 何者かの思惑蠢く怪しげなネットゲームだ。
 しかも深夜〇時に勝手に起動するという厄介なシステム付きだ。
 負ければ契約相手、ボーカロイドを失い、ゲームをプレイできなくなる。
 何が何でもやらなければならないという理由がある訳ではない。
 ミクがこのゲームで求めている勝利も、そこに明確な理由があるという訳ではないらしい。
 深刻に打ち込まねばならないという理由もない。
 逃げるという選択肢も選べない訳じゃない。
 だが、俺は知っている。
 あの眼を、知っている。
 真剣に何かに打ち込むときの、あの眼を。
 ミクは真剣なのだ。
 だからこそ、プレイヤーを大事にし、献身的にフォローする。
 それは彼女が真剣にこのゲームをプレイしているからだ。
 野球選手にとっての野球と同じように。プロゲーマーにとってのゲームと同じように。俺にとっての自慰がそうであるように、ミクにとってもこのゲームは大切なものなのだ。
 そうと分かればその想いは無碍には出来ない。
 その想いの価値を、重さを、俺は知っているのだから。
 何より、ゲームは楽しむものだ。
 まだ俺は何もしていない。
 俺は《バーサス・ボーカロイド》を何も知らない。
 あの、電脳空間で、俺は何が出来るんだろう。
 ミクは何をするんだろう。
 そこにはどんな光景が待ち受けているのだろう。
 そんなことを考えていると、次第に俺の意識は夢の中へと引きずり込まれていった。

 その日、俺は夢を見た。
 俺はゲームをプレイしていた。
 さきほど見たシーンと同じような領域。地下水道だ。
 俺は水面に立っていた。
 目の前には少女が倒れている。青色のツインテール。見るからにミクの姿だ。
 ミクはぐったりとしている。息も絶え絶えといった様子だ。
 手足は震えている。呼吸は細く、荒い。
 なんでゲーム世界で死にかけているのか、なんて思いすら浮かばない。
 思考がショートした。
 俺の中で視界が惑乱する。
 光景が、ダブる。
 倒れたミクと、ベッドに横たわる少女の姿が重なって見える。
 息が、止まった。
 呼吸の仕方すら忘れた。
 ――いやだ。
 俺は思わず後ずさる。嘔吐感が沸き上がる。
 気持ちが悪い。眩暈がする。
 ――いやだ、いやだ、いやだ。
 俺は腰から力が抜けた。
 その場で跪き、視界からその姿を消すように俯いた。
 それでも脳裏に灼きつく。頭にこびりついている。

 助からない。

 そんな言葉が胸を満たす。
 何をしても無駄だ、と声が聞こえる。
 声は続けて言う。
『足掻いても無駄だ。助かりはしない。目の前の少女も。あの時の少女も。覚えているだろう? そうだったよな? お前が何をしたところで、結局あいつは――』

「うわぁああああああああああああッ!!!」
 悪夢だった。
 ベッドの上で、俺は荒い息をしていた。
 くっそ、ベッドで荒い息とか、響きだけならエロいってのに、ちっともそんなテンションにはならねえ。
 見た夢が最悪だった。
 結局俺は、何も変わってない。引きこもりのオタクでしかない。
 あれから、変わったって気がちっともしない。
 分かってる。分かってはいるんだ。
 考えたってどうしようもないってことも。こうしていることが何のプラスにもならないんだってことも。
 だけど、それでも――。
 手を伸ばしても掴めないものがあるんだなって、そう思うだけで、どうにも打ちのめされるものがあるのだった。
 俺はちょっとうんざりした気持ちで、カーテンを開けた。
 眩しい日差しが、俺に起きろと言っているみたいだった。

 翌日。
 バカみたいに延々と繰り返されるつまらない日常は終わり、日は暮れ、夜がやってきた。
「準備はいいですか? マスター」
 もはや聞き慣れつつある少女の声に、俺は少し辟易しながらも答えた。
「ああ。約束通り、十一時〇〇分、ちゃんと一時間前だぞ」
 言うと、ミクはディスプレイの中央で頷いていた。
「ええ。ちゃんとパンツも穿いてますね」
 見るとこはそこか。まあいい。
「けど、どうして一時間前なんだ? 準備するにしてもそんなに時間かけるものなのか? 設定なんざ十分あれば充分だろ」
「違うんですよ、マスター。深夜〇時に始まるのは《ランダムマッチ》。対して、これから行うのは《フリーマッチ》なんです」
「……説明よろ」
 俺が匙を投げると、説明できることが嬉しいみたいにミクが顔を綻ばせる。ちくしょう、不意打ちだ。可愛い……。
「ハイ! 深夜〇時に行われるのは《ランダムマッチ》と言って、シチュエーション、相手などをほとんど選ぶことが出来ない対戦となっています。そのため、状況によって有利不利が激しく分かれ、事前の準備も困難なんです」
「……なるほど。それは面倒なシステムだな」
 俺は顎に手を当てて溜息をつく。
「はい。ですので、通常はオーソドックスな兵装を用意して挑みます」
「極端な装備にして相性最悪だったら目も当てられないからな」
「そうですね。ですが、《フリーマッチ》の場合は話が変わります」
「それが今回始めるプレイの名称だったな。詳細頼む」
 ミクはまた元気よく挙手して答える。律儀な奴だなしかし。
「ハイ! 《フリーマッチ》では、相手やシチュエーションを選択・指定することが可能なんです、マスター。例えば遠距離用の兵装を使って、同じような長距離用の兵装と戦うことも出来ますし、逆に近距離用の兵装の相手を選んで戦うことも可能なんです」
「相手は自由に選べる……。しかもいつでもプレイできる……。どちらかというとこっちのほうが普通のゲームっぽいな」
「そうなりますね。ただし、《ランダムマッチ》ほどポイントが獲得できる訳ではありませんし、あくまで補佐的な役割なんですけどね」
 などと、ミクは言うが、利点はそれだけでもなさそうだ。
 何より相手が分かるのはデカイ。練習にはもってこいという訳だ。
 ……なんとなくミクの思惑が分かってきたぞ。
「つまり今回は対戦の練習をしよう、という訳だな」
「さすがですね、マスター! 話が早くて助かります。……という訳で今回はリベンジしちゃいましょうッ!」
 ミクが何らかの操作を行ったのか、画面内を文字が錯綜する。
 そして、表示された文字は……、

 【《鏡音リン/レン》にフリーマッチを申し込みますか?】
 【YES/NO】

 その名前の横に、フェイスアイコンが表示されている。
 昨日見た、金髪の少女の顔だ。
 燃え上がる炎とマイクスタンドを抱えた姿が思い出される。
 そして、ミクを背後から襲った少年の姿も。
 俺はゴクリと生唾を飲み下す。
「準備はいいですか? ……マスター」
 ミクは遠慮がちに訊いてくる。そんな気遣いは無用だってのによ。
 前回、俺たちは負けた。
 初陣だったから。それもあるだろう。だが、挟み撃ちという予想外の手を打たれたのだ。それこそが一番の敗因だった。
 同じ轍は踏まない。
 不意打ちなんてものは、出会い頭にしか成立しない。
 ならば状況は今度こそ互角。
 ミクは強い。それは前回の戦いで良く分かっているつもりだ。
 あとは、このゲームのルールを把握すること。そして、ミクを信じること。
 たったそれだけで、俺たちは勝てるのだ。
 俺は信じることにした。信じて、そのボタンを押した。

 【フリーマッチが承認されました。】
 【バトルフィールドへダイブ接続します。】

 メッセージが表示され、俺の意識が身体から離れてゆく。
 幽体離脱するみたいな得体の知れない気持ち悪さを感じつつ、俺の視界にはノイズが広がってゆく。
 点が走り、線が交わり、面が広がる。
 俺の意識は再び、電脳世界へ旅立っていったのだった。



to be continued...

あとがき

◆プロローグ
・何故かいきなりオナニートーク
本作では主人公をおかしな奴にしたかったので熱く語って頂きました。やたら断定的な内容ですが、そこはお馬鹿な演説として鼻で笑って流してやってください。
・ウェーブパッド
実現しそうで実現しないアイテムのひとつ。技術自体は既にあるような気がするんですがね……。諸問題があるんでしょうか……。
・タイトル
当初はボカロ・ストラグラーというタイトルでしたが、ストラグラーという単語がしっくりこなくて変更。略すときに『VS』の文字がついたらかっこいいなー程度の発想です。だったらVはボカロのVでしょ……って思ってた時期が僕にもありました。
色々考えた末、バーサス・ボーカロイドになりました。調べたときにVS.netというサイトが実在するらしくて慌てて変更したという裏話です。結果的にVSV.netのほうが独自性が高いし、結果オーライということで。
・サブタイトル
よくあるボカロシーンにあわせて、中二臭のする漢字+カタカナで。これはネタが豊富なのですごくやりやすいです。

◆第一話
・主人公
実はいまだに本名が明かされておりません。というかミクさんがマスターとしか呼ばないものだから書く隙がなかったんです。基本的に変態でオタク。頭はおかしいですがそれ以外は普通の男の子です。
・初音ミク
ミクには既存のイメージの中でも、たぶん最もポピュラーな『従順なボーカロイド』としてのキャラクターを採用しています。ただし、体重とお胸のサイズに触れると途端にドス黒くなります。取扱注意。
・世界観
一応日本ではなく架空の世界が舞台となっております。ですが、大体日本と同じような場所です。使ってる単位(メートルとか)も一緒。最大の違いは彼らの世界では『初音ミク』はVSVにしか存在しないキャラだということです。ボカロ技術もありません。なのでこちらと彼らとでは『ボカロ』という概念の解釈が違います。
・武装
アタッチメントと読みます。武器防具と解釈しても構いません。
《ネギ・ブレード》……高周波ブレード搭載ネギ。剣として使用。ダイヤモンドも真っ二つにします。とてもおいしい。ちなみにネギは喉に良い食材でもあるようです。全くの偶然のようですが、歌姫設定と合いますね。
《ハピネス・ポップ》……マイクです。主にポップ系の詠唱に使用。ピンク色の可愛いリボンが巻かれている。
《オリジナル》……いわゆる普通のコスチューム。これを変更することでコスプレが出来る。あと、能力値も変わるらしいです。耐性とかそのへん。
・詠唱
登場する曲名は架空のものです。ただしあまりにも汎用的なものに限ってはそのまま使ってます。《ホーリー・スター》とか。まぁ表記も違うし。いいかなって。
歌詞も既存のものをなぞったり、なぞらなかったり。
《いろは唄》……元の詩はとっくに著作権切れてるというかもう太古の詩なんでそのまま使用。何故か炎属性が付加されております。DIVAの影響だと思います。
《メランコリック・フレア》……有名すぎるリン曲のタイトルにちょっと付け足して炎属性っぽくしてます。ギリギリか……?
《戦樂・神楽》……もうバレバレですが、あの曲です、ハイ……すみません……。技名っぽく神楽の文字を追加。TOXのレイアの秘奥義っぽいですね。気のせいってことにしてください。
・鏡音リン・レン
二人で一人。このネタ思いついたときに「俺、天才じゃね?」って思いました。
・引き
あまりにもアレですみません。ちゃんと書きます。許してください。

◆第二話
・説明回です。
説明不良だった部分の補足が主な内容です。
・ゲームシステムとか。
川原先生のアクセルワールドと被らないように必死でした。まぁそれでもそっくりな部分は出てきちゃいましたが。
一番の違いは「自分で戦わない」というところかと思われます。まぁ詳しくは次回で説明する予定です。
あと深夜零時に自動的に接続されるという設定が個人的にツボです。超好き。なんでか分からんけど。
・主人公。
一之瀬幹人といいます。セクハラばかりします。引きこもりです。
でも悪い奴じゃないので嫌わないであげてください。ただちょっと人よりエロいだけです。それだけなんです。
・用語。
増えてきたのでそのうち用語解説ページを作るかもしれません。
……作らないかもしれません。
・次。
リベンジマッチ!
新人賞狙いながら書いてるので、どうなるか分かりませんが、まったりやっていきます。更新遅くても怒らないでください。