天壌命の人間倶楽部


圧倒的な美貌とカリスマを持つ美少女、天壌命は幸薄い少女に興味があるようで……。元々掌編だった話ですが、ちょっと構想が思いついたので急遽シリーズ化。不幸ネタが思いついたら続きます。不定期更新。

幕間一"切札遊戯"①

「なっちん先輩の歓迎会やろーよ!」

 そんな向笠の提案を皮切りにパーティーが催された。
 まぁ、パーティーと言っても、ドレスとか着るような豪奢な感じでもなければ学園の外へ出るようなノリのものでもない。
 あくまで学校で、いつも通り部室に集まってワイワイ騒ぐだけの、パーティーなどと形容するのもおこがましいくらいに、取り入って特筆すべき点もない普通のパーティーだ。

 ただ、どーせやるなら勝者には景品を用意しようぜ! とあたしが言い。
 先輩にならわたしの全てをもらって欲しいです、などと茉水が見当違いな告白をして。
 じゃあ、勝者には敗者に対する命令権を与えるということにしましょうか、と天壌はまとめて。
 んー、じゃあゲームは取り敢えず、トランプにしましょーよ! 向笠が朗らかに主張した。

 そんなわけで。
 第1回部員対抗命令実行権争奪切札遊戯大会が執り行われたのだった。

「じゃあ、何から始めよっかー!」

 向笠がトランプを切りながら、そんなふうにぼやいていた。
 それに対し、茉水は、えっと……、うんと……、と真面目に思案している。
 そんな向笠はというと、なんともなしに呟いた独り言だったらしくとくに周囲を伺おうとはしていない。
 くッ……。茉水が不憫だ。訊かれてもいないのに考え込んでしまって、なんか可哀相だ! いっそ良い子良い子してやりたい。髪の毛がぐちゃぐちゃになるくらい頭を撫で回してやりたいくらいだ。
 天壌はというと、そんな遣り取りを眺め、愉しそうに微笑んでいる。その視線にはあたしも含まれているらしく、どうやらこの思考も読まれているらしかった。
 ……くそ、なんかやりづらいな……。

 しかしまぁ……。気分を切り替えて、命令する案件のことを考えてみようかな、うん。

 まず最初に、茉水。
 やりたいことは山ほどある。
 が、しかしどうだろう。あまり周知の場で事に及びたくないと感じている自分がいる。
 だが、人前で堂々とできることといえば内容は限られてくる。
 髪の毛を引っ張ったりとか、泣かせたりとか、そういうのはまずいだろう。
 だが、ふと思う。
 それ以外に何がしたいのだろう。
 普通に手を繋ぐとか、ご飯を食べさせるとか、そういうのはどうだ?
 ……以外とアリだ。むしろ良い。かなり良い。GJと言わざるを得ない。「いいね!」を秒間十二連打だ。ハッハッハ、素晴らしいとは思わんかね?

 次に天壌。
 こいつはむしろ困らせてやりたい。
 なんだかんだで手込めにされてばかりいる気がするし。
 先輩として、もっと目上にならなければならないと思う。というか何よりあたしのプライドが許さない。攻めるのはあたしだ。それは絶対的ルールなのだ。
 こいつは踏みたい。頭を踏んづけてやりたい。先程は環視の目を気にしたけれど、この場合は何故か気にならないから不思議だ。
 口答えするのを押さえ込んでグリグリと地面に擦りつけてやりたい。泣きながら謝罪させたい。頭を垂れて許しを請われたい。想像するだけで背筋が震える。
 やっぱりそうだ。あたしはそうやって君臨するべきだ。それこそがあたしなのだ。

 次に向笠。
 こいつはあんま好きじゃないんだよな。リア充っぽいし。なんでここに居るのかが分からん。天壌はこいつに何を感じ取ったというのか。
 まぁ、天壌がここのメンツをどういう基準で集めたのかもよく知らないから別に良いんだけどさ。気になるっちゃ気になる。
 それともこいつにも何かがあるのだろうか。
 茉水や天壌に匹敵する暗部が。あたしに匹敵するような暗部が。
 だとしたら、この子は隠すのが上手いのかも知れない。そういう闇なのかもしれない。そういう病みなのかもしれない。
 まぁ、それはそれとして。
 今のところ、あたしの標的にはならないかな。狙うのは茉水。そして、天壌。それで行こう。

 ん……? 少し気になったあたしは疑問を口にする。
「なぁ、命令は誰に対してするんだ? 一位のやつが自由に決めて良いのか? それとも最下位に対して実行になんの?」
 あたしが訊くと、考えが至ってなかったらしく、向笠も首を傾げた。
「ん~。どうしましょっかね? ミコト様?」
 キャッチボールする気がないのか、右から左へ受け流した向笠に、天壌は同じく首を傾げて見せた。顎に当てた人差し指が異様にいじらしい。これは狙ってやっているのだろうか。
「そうねぇ……。それじゃあ、最下位の人にやってもらうことにしましょうか……。あ、ちなみに……」
 天壌は可愛らしい仕草で手をポンと叩くと、その仕草には大変似つかわしくない爆弾を投下した。

「最下位が複数いた場合は全員に実行できることにしましょう?」

 ……その発言に、全員が居住まいを正した。
 つまりは、こういうことだ。

 意地でも最下位を避けなければ、どんな屈辱的行為を受けるか分からないということだ。

「さぁ、みんな。楽しみましょう」

 天壌以外は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。

「よ、よぉ~し! じゃあまずは、ポーカーで勝負だよっ!」

 ショットガンシャッフルとか言っただろうか、とにかくカードをガッツリと切り終えたらしい向笠が、トントンと束を整えて、それを机の中央にドンと置いた。
 それぞれはゴクリと生唾を呑み込み、決意を新たに札へと手を伸ばしたのだった。



to be continued...

幕間 あとがき


向笠は珍しく(というか多分作中初めての)表モード。
普段は明るく元気な女の子を演じています。
人間倶楽部は根暗というか喋りが苦手な子が多いため、彼女は司会役に回ることが多いです。
あくまで演技であって、実際のキャラがこういうキャラというわけではありませんのでご注意を。

・まずはパーティー発祥のお話。
そして、一番大事なルール説明の回。
今後どんな展開が起こるんでしょうねー?
……過度な期待はしないでくださいね?

・そんなこんなの緩いお話です。
今回急遽続けることにしたのは、思いの外PV数が増えていたからです。というか、亘里作品で一番人気がある作品だったりするので。(まぁいずれにせよ底辺なのは違いないけれど)。
そんなわけで、見てくれてる人が多いのなら、もう少し頻繁に更新しないとなぁ、と自分を諫めてみました。その結果です。
あ、でも、中身は全く以てありません。(今までもロクになかったけど)。
とにもかくにも、まったり続きますので、お付き合いいただければ幸いです。